【株式会社ヤマシタ】地方企業を継ぐという決断を、社会課題への挑戦に変えた経営者の選択
公開日:2026/03/23

中小企業庁が運営する成長加速マッチングサービス(通称:セカマチ)は、成長志向の事業者と支援者をつなぐマッチングプラットフォームだ。今回、同サービスに登録し、富山県から地方製造業の「価値」と「働きがい」の再定義に挑む株式会社ヤマシタの代表取締役・福山氏に、組織改革の軌跡と未来への展望を聞いた。
同社の成長には、地方企業に根付く「コスト競争の呪縛」からの脱却と、見えざる付加価値を言語化し対価に変える徹底した戦略がある。
従業員の継続的な賃上げを実現してきたこれまでの歩みと、単なるサプライヤーから「提案型パートナー」へと進化するための今後の取り組み、そして地域全体に関わる社会課題への挑戦に迫る
インタビュイー紹介
事業者紹介:株式会社ヤマシタ 代表取締役 福山 雅典 氏
株式会社ヤマシタ富山県でステンレス加工シェアトップクラスを誇る金属加工メーカー。ビル用サッシやドア等の建築金物から、駅のホームドア、産業機械まで「世界に一品しかない」オーダーメイド製品を全国に提供している。ゼネコン出身の福山氏のもと、IT活用による付加価値の可視化と徹底した賃上げを経営の柱に据え、地方製造業の枠を超えた「提案型パートナー」への進化と年商100億円企業への飛躍を目指している。
目次
事業承継は、最初から想定されていなかった
株式会社ヤマシタは、福山氏の父を含む親族3名によって創業されたファミリービジネスだ。
しかし、当初の事業承継予定者は別の親族であり、福山氏自身は承継を前提としたキャリアを歩んできたわけではない。
大学卒業後は建設業を志し、首都圏の上場ゼネコンへ入社。人事部門も経験し、現場だけでなく、組織運営や給与体系を内側から見てきた。
「そのままいけば、サラリーマンとしてのキャリアは順調に進んでいたと思います」
転機となったのは、予定されていた後継者が承継を辞退したこと、そして父の病気だった。
長年にわたる話し合いを経て、2019年、福山氏は富山へ戻る決断を下す。
現在も家族を東京に残し、単身赴任という形で経営にあたっている。
「承継」を、自身のキャリアとして捉え直した瞬間
地方企業に戻るという選択は、決して合理性だけで割り切れるものではなかった。
首都圏で築いてきたキャリアを手放すことへの迷いもあったという。
そんな中で、価値観を大きく揺さぶられる出来事があった。
高校時代の同級生で、事業承継支援に携わるコンサルタントとの会話だ。
「事業承継は、個人や家族の問題ではなく、地域全体に関わる社会課題だ」
この言葉は、福山氏がゼネコン時代から感じてきた違和感と重なった。
新入社員のボーナスが、地方の製造業で長年働くベテラン社員のボーナスを上回る。制度としては合理的でも、構造的な格差を前に、強い問題意識を抱いていた。
「自分が値切る側にいたとき、その分、誰の給料が下がっているのか。
立場が変わって、初めて実感として分かりました」
事業承継は、安定を捨てる選択ではなく、社会的な課題に向き合うための挑戦なのではないか。そう捉え直したことで、経営に向き合う覚悟が定まったという。
経営の最優先ミッションは「給料を上げること」
福山氏が経営の軸として掲げたのは、極めて明確だ。
「従業員の給料を、継続的に引き上げること」
2019年の就任以降、コロナ禍の1年を除き、毎年おおむね3%程度のベースアップを継続している。
そのために取り組んだのが、付加価値の可視化だった。
納期を早める、仕様変更に対応する、現場で調整を重ねる。それらはすべて、これまで十分に価格へ反映されてこなかった無形の価値だ。
「汗の量が増えているのに、対価を求めなければ、給料は上がらない」
営業現場には、無形の付加価値に対して正当な対価を求める姿勢を浸透させていった。
「安売りしない」ことが、信頼につながる
地方には、安く提供することを美徳とする価値観が根強く残っている。福山氏は、それを否定するのではなく、再定義する必要があると考えている。
早く、正確に、品質高く仕上げる。それは技術であり、ブランドだ。
「陶芸家の作品と同じで、材料費だけで価値は決まりません」
顧客の予算を理解したうえで、双方が納得する価格を探る。そのプロセスこそが、仕事の本質だと語る。
専門外だからこそ進んだ、組織の自律化
福山氏自身は、板金加工の専門家ではない。それが結果的に、組織のあり方を変えた。
「分からないからこそ、現場に任せることができた」
DXの導入や新しい工具の採用など、改善提案は現場から自然と生まれるようになった。
不要な機械を処分し、作業スペースを確保するなど、合理化も進めている。
ルールについても同様だ。
「守れないルールは見直す。ただし、決めたら100%守る」
目的に立ち返り、現場が納得できる形へと更新する文化が根づきつつある。

補助金は「経営方針を後押しする仕組み」
成長加速化補助金の活用についても、福山氏のスタンスは明確だ。
賃上げを条件とする制度設計が、自身の経営方針と一致していた。
「補助金のために方針を変えたのではありません。
やりたかった経営を、後押ししてくれる仕組みでした」
事業と組織のこれから
今後の目標は、図面通りに作るだけのサプライヤーから、製造課題を解決する提案型パートナーへの進化だ。
同時に、最大の課題として挙げるのが「欲が持ちにくい社会」だという。
「欲があるから、働く意味が生まれる。
給料が上がる喜びも、そこから生まれると思っています」
生成AIの活用なども含め、地方でも情報格差を感じさせない環境をつくっていきたいと語る。
次世代の経営者へ
「事業承継は簡単な道ではありません。でも、地域や社会を変える力は、確かにあります」
地方だから、製造業だからと可能性を狭める必要はない。
社員が誇りを持って働ける場をつくり、「この会社のためなら頑張りたい」と思える環境を整える。
それこそが、経営者に求められる役割なのだと、福山氏は語った。

『セカマチ』で出会う、共創のパートナー。
株式会社ヤマシタが、見えなかった付加価値を徹底して言語化し、現場への権限委譲によって自律的な組織へと生まれ変わったように、事業承継や変革の第一歩は、自社のポテンシャルを正しく認識することから始まります。
しかし、長年の商慣習や「安売りの美徳」といった思い込みを払拭し、新たな適正価格や戦略を打ち出すことは、社内のリソースだけでは容易ではありません。こういった場合、客観的な視点を持つ「外部の知見」や、背中を押してくれる存在が助けになります。
中小企業庁の「成長加速マッチングサービス(セカマチ)」では、あなたの会社の課題に寄り添い、次のステージへの足がかりとなる専門家と出会えます。地域や業界の枠を超えた成長のために、ぜひご活用ください。
成長加速マッチングサービスとは?
事業の拡大など新しい挑戦を考えていても、「どこに相談すればいいのか分からない」とい
う悩みを抱える事業者は少なくありません。一方で、企業を支援する専門家にとっても「支
援を必要としている事業者となかなか出会えない」という課題があります。
その両者をつなぐために、中小企業庁が立ち上げたのが成長加速マッチングサービス(通
称:セカマチ) です。
事業者は、セカマチで自社が取り組みたいテーマ(資金調達・事業承継・経営相談)を登録
すると、国が認めた支援者(金融機関や認定支援機関)から相談の申し出をうけることがで
きます。

サービスの役立つポイント
事業者に役立つポイント
●取り組みたいテーマ(挑戦課題)に対して、解決可能な支援者から直接コンタクトを受けられる
●金融機関、投資機関、認定経営革新等支援機関など、国が認めた支援機関のみが登録しているため安心
●情報公開する支援者の範囲を選べるため、希望する支援者に限定してアプローチを受けられる
支援者に役立つポイント
●中小企業庁の運営するサービスで安心
●約40,000社の事業者が登録しており、無料でコンタクト可能
●事業者の財務データや基本情報に加え、事業者の取り組みたいテーマ(挑戦課題)の具体的な内容を確認できる
●市区町村レベルでの事業者検索や、事業者が取り組みたいテーマ(挑戦課題)の種類(資金調達/事業承継/経営相談)の検索が可能で、自身の専門性に合った事業者に出会える
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